今は農業経営がアツい!就農する方が減っているってホント?

農業従事者が減少する一方で、農家1戸あたりの営農面積は増加しています。農作業の生産性を高めて生き残っていくためには、ICTやロボット技術などの積極的な導入が必要です。まずは、10年後に予想される営農環境の変化について考えてみましょう。

 

 

 

 

農家の高齢化や後継者問題が慢性化するなか、法人化による農地の集約と経営の大規模化、スケールメリットを活かして機械化による経営効率の向上が進むことが予想されます。

 

 

 

農業業界でも、M&Aによる合併・買収の事例も増加傾向です。10年後に予想される農業従事者の減少や、農家・農地の集約による大規模化について解説します。

 

 

 

 

農業人口の減少と大規模化・法人化

新規就農者は毎年5.5万人前後で推移していますが、50歳以上の人が約65%を占めており農業従事者の若返りに至っていないのが現状ですね。

 

 

 

一方、自営・専業での農業従事者(基幹的農業従事者)は2015年をピークに減少が続いています。

 

 

 

基幹的農業従事者の約7割が65歳以上であることがわかります。

日本人の平均寿命は男性81.64年・女性87.74年(厚生労働省「令和2年簡易生命表」)であり、このままの状態だと2030年には基幹的農業従事者が約90万人となることが予想されています。

 

 

 

専業農家の労働力が約3割減少するため、農業技術の継承や農作業の機械化・効率化が急務です。

 

 

 

大規模経営体の増加

農業従事者の減少に伴い、個人農家の戸数(農業経営体数)も減り続けています。

 

 

 

農家全体が5年間で約30万戸のペースで減少しており、2030年には約40万戸になると予想されています。一方、法人の農業経営体は5年間で4,000法人程度のペースでの増加が続いており、2030年には約4万法人になる見通しです。

 

 

 

 

 

農地の集約化

農家の経営規模を拡大しても、農地が複数の場所に分散していると農作業の効率化に支障が生じます。栃木県の例では担い手の62%が、農地の分散が経営規模の拡大に向けた課題だと認識しているのが現状です。

 

 

 

地域との話し合いの推進や手続きの簡便化といった課題は浮上しているものの、新規就農を支援する一面もみられます。自治体と連携して、水利・排水対策などとセットで農地の区画整理を実施するケースもみられます。

 

 

 

 

農地の集約によって農作業の機械化やスマート農業が推進され、生産コストを抑えながら持続可能な農業経営を目指せるようになります。

 

 

 

 

 

集落営農からの法人化へ移行

農業経営の大規模化や農地の集約に伴い、集落営農組織から法人化した上で農業経営を持続させる動きも高まりつつあります。農家の高齢化や後継者不足で懸念される、耕作放棄地の解消策の1つとしても注目されています。集落単位で農事組合法人を立ち上げる事例もみられますが、後述する6次産業化など経営の多角化を目指して、農家が単独で株式会社・合同会社化する事例も少なくありません。

 

 

 

 

法人化によって社会的信用度が高まり、金融機関の融資が受けやすくなることで設備投資や農地を拡大する資金を得やすくなるのがメリットの1つです。従業員を雇い、作物の栽培技術などのノウハウを組織的に共有できれば、作物の質を高めて市場での価値も高めていけるでしょう。

 

 

 

 

国が農家の法人化を支援する動きがみられる一方で、小規模農家や家族経営の農家ならではの小回りの良さにも注目されています。

 

 

 

 

前述したように、2020年時点で個人経営の農家が100万戸以上ありますが経営規模が小さい分、化石燃料などの外部資源への依存度が低いのが特徴です。作物の栽培で使用する農薬を厳選するなど、農家それぞれの価値観で食の安全を守る取り組みもみられます。

 

 

 

 

ICT技術や農業用ロボットの性能が向上しており、スマート農業の導入を検討する農家が増え始めています。内閣府が推進する「Society 5.0」でも、IoTやAIといった最新技術でビッグデータを分析して農業の生産性を高める取り組みが始まっています。スマート農業の10年後の姿について予測してみましょう。

 

 

 

 

 

ICTやロボット技術などの先端技術

情報機器や通信回線、各種ソフトウェア・プログラムなどのICT技術を農業に取り入れることで、農作業の大幅な省力化が実現します。

 

 

 

大型機械の導入が難しい作業場面でも、作業する人がアシストスーツを着用して体への負担を軽減できます。収穫作業や重量物の持ち上げ時などで効果を発揮するため、作業中の事故リスクの減少だけでなく、農業は重労働だというイメージからの脱却も期待できるでしょう。

 

 

 

 

Society 5.0の農業分野における実現

内閣府では、人とモノをネットワークでつなぐIoTという技術を活用して、知識や情報を共有して新たな価値を生み出す「Society 5.0」を推進しています。

 

 

 

 

農業分野でも、収集・蓄積した気象情報や作物の生育情報などを、収穫量の設定や作業計画に反映させる取り組みが始まっています。農作業に関する情報もデータに残せるため、ノウハウ共有にも効果を発揮するでしょう。

 

 

 

 

収穫目標の実現に取り組む例では、ドローンに搭載したセンサーを通じてほ場の情報を把握し、作物の生育情報を見える化する技術も実用化されています。生育不良の場所にピンポイントで施肥することで、肥料代などのコストを削減できるだけでなく作物の品質のばらつきを減らせるのがメリットです。

 

 

 

 

農家と消費者・流通関係者とをアプリなどのコミュニケーションシステムでつなぎ、それぞれの立場で得た情報を分析することでニーズに合った農作物の栽培を検討できるようになります。その結果、フードロスを未然に防ぎ、作物の価格の安定化にもつながるでしょう。

 

 

 

 

持続可能な農業のために経営者に求められること

 

情報収集 高付加価値

営農規模の拡大やスマート農業の推進に対応しながら持続的に農業経営を続けるためには、積極的な情報収集が必要不可欠です。慣行にとらわれない新技術の導入や農家のブランディング6次産業化による収益体質の強化も、農家の生き残りの重要な鍵となるでしょう。農業経営者に求められる、3つの考え方について解説します。

 

 

 

 

積極的な技術導入・情報収集

来年、そして10年後も農業経営を続けるためには、前述したような最新技術を農作業に取り入れ、作業の省力化を進めていくことが大切です。事業や販路の拡大を検討する際も、農業関係者以外からも幅広く情報を収集し、市場への訴求方法やタイミングなどを慎重に見極めるようにしましょう。

 

 

 

 

新しい技術や機器の導入には多額な費用がかかりがちですが、国や自治体から補助金助成金を得られる可能性もあります。農業経営のあり方を見直すチャンスにもつながるため、農協などの営農団体や自治体に経営改善について相談するのも有効です。

 

 

 

セミナーや勉強会に参加するのも、農業経営に関する正しい知識を身につける効果を発揮します。似たような経営課題を抱える農家と情報交換できる可能性もあるでしょう。

 

 

 

高付加価値化による事業拡大

作物自体をブランド化して付加価値を高めることで、生産以外にもビジネスを拡大するチャンスが生まれます。

 

 

 

農協への出荷に加えて、直売所やインターネット通販での販売も作物の付加価値を高めるには有効な方法です。農家の名前を表示して野菜・果物を販売し、知名度の向上を目指す農家も少なくありません。後述する6次産業化への足がかりになる可能性も秘めています。

 

 

作物を市場に出荷するだけでなく、加工品を販売したり収穫などの体験を提供したりする6次産業化も販路拡大には有効です。

 

 

 

自治体や企業と包括協定を結んで、地域の活性化や新商品の開発・農産品のブランディングに乗り出す事例も増えています。通年で収益を得るチャンスにもつながり、農業経営の安定にもつながるでしょう。

 

 

 

まとめ

6次産業化で成功して知名度を獲得している農家も多いため、新規参入にあたっては斬新なアイディアが求められます。

 

 

また、InstagramなどのSNSによる情報発信も農家の知名度を高め、販路拡大のきっかけにつながることも考えられるでしょう。農業以外の市場動向にも目を向け、新たなビジネスにつなげる起業家精神も農業経営者には求められます。